関東学院大学経済学部
安田八十五研究室
特別研究報告シリーズ
No.2002−02
ベネチアからゴンドラが消える日
〜その対処方法と経済効果〜
青山学院大学経済学部安田八十五2001年度講義
『環境経済学』最優秀最終レポート
環境政策学者(工学博士)
安田八十五 Dr. Marco Yasoi YASUDA
〒236−8501横浜市金沢区六浦東1−50−1
関東学院大学経済学部教授
研究室直通電話:TEL&FAX: 045-786-9802
事務室TEL: 045-786-7056 事務室FAX: 045-786-1233
電子メイル: yasuda85@kanto-gakuin.ac.jp
関東学院大学安田研究室ホームページ: http://home.kanto-gakuin.ac.jp/~yasuda85/
安田八十五個人ホームページ: http://www5d.biglobe.ne.jp/~yasuda85/
ベネチアからゴンドラが消える日
〜その対処方法と経済効果〜
「水の都」ベネチア
今、文化遺産が瀕死の状態である
「車の走らない都市」
その自動車がベネチアを沈める遠因である
青山学院大学経済学部
環境経済学(安田八十五)
2001年度最終レポート
4−L 6番 学籍番号 12197220 児玉 智彦
4−I 31番 学籍番号 12198178 草薙 大介
主旨と目的
9月11日、世界中を震撼させた同時多発テロ。崩れ落ちたワールドトレードセンタービルを前にしてアメリカ、ブッシュ大統領はこう感想を述べた。「あまりにも悲惨な状況」。これとうりふたつの感想を述べた人物がいる。イギリス人、フランセス・クラーク、後の救済基金代表。1966年、「水の都」と異名を持つベネチアが高潮被害を受けた際の出来事である。
ベネチアはアドリア海に浮かぶラグーンに作られた「水の都」、映画祭でも知られる都市。海抜は1メートルに満たず、しばしば浸水被害に見舞われた。当初の原因は、地下水くみ上げや天然ガス発掘による約70センチの地盤沈下であった。近年では地球温暖化による海水面上昇と集中豪雨により、旧市街で最も低いサンマルコ広場が水に漬かる80センチの被害が年間で80日を越え、さらに上昇する傾向にある。ビザンチン文化の影響を数多く残すベネチアのシンボルであるサンマルコ寺院を始めとして多くの建築物が塩害に、ルネサンス絵画の傑作も痛みが目立ち、文化的遺産に打撃を与えているというのが現状である。ある専門家はあと20年ベネチアが沈まずに存在することを保証出来ないという。
スタンリーキューブリック原作、スティーブンスピルバーグ監督で公開された「A.I」。クライマックスの100年後にはニューヨークの街が海底に沈んでいる。あの光景はまったくの虚構ではない。実際に日本の平成9年度経済白書では1メートルの海面上昇で日本の砂浜の9割が失われ、410万人、資産100兆円に影響すると言われている。もしも南極の氷が溶けると海面は70メートルの上昇をきたし、大量の原油が海に流れて海が死んでしまうこともありえる。ベネチアという観光、文化都市を引き合いに出すまでも無くこれらの問題は私たち個人のレベルでも急務だといえる。地球温暖化の主な原因は二酸化炭素である。二酸化炭素を排出する主な原因は自動車である。それらを社会的、個人的経済効果と環境問題を照らし合わせて少しでも利益があるように考察していきたい。
車の走らない都市、ベネチア。
自動車が原因で沈む危機に瀕しているのは皮肉なのかもしれない。
その悲惨さは貿易センタービルとなんら変わらない。
「水の都」を沈めようとしているのは世界50億人のテロリストである。
レポートの流れ
@
ベネチアの観光による経済利益と修復費の関係
ベネチアに訪れる観光客から経済利益を換算して修復費と比較対照して考察する。参考としてベネチアと同じ総工費が懸けられた日本諫早湾の例を取り上げた。
A 二酸化炭素と地球温暖化
二酸化炭素の地球温暖化に対する影響と今後対策を立てなければどうなるのか報告。
B イタリア政府観光局のデータ
イタリア政府観光局に質問したデータからベネチアの観光による経済効果を調べ、その正確な価値を推測した。
C アンケート
アンケートにより、環境への意識を調べるとともにベネチアに対し利用価値、非利用価値を調査し、その結果を考察した。
D 自動車の走らない都市、ベネチア
「車の走らない都市を車が沈める」というパラドックスから車の排出量に着目し、東京都環境科学研究所の調査例を提示し、アイドリングストップの効果を発表。
E アイドリングストップ
環境庁の資料を基に、現実に近い仮定の話としてどの程度節約効果があるのか、どの程度の二酸化炭素抑制が出来るのかを個人レベルで検証。
F 提言とまとめ
@ ベネチアの観光による経済利益と修復費の関係
ベネチアが水害を受けることは世界中の低地の都市(例えばオランダのアムステルダム)も被害を受けることになるが、ここでは海抜1メートルに満たないベネチアについて考察していきたい。ベネチアはゴンドラ、映画祭、カーニバルなどが有名な観光都市である。この都市には年間1200万人の観光客が訪れている。1200万人が観光産業に日本円で1万円を落としていくと1200億円の単純な経済活動が行われていると考えられる(当然旅費、食費、宿泊費、お土産代として考えれば多すぎるかもしれないし少なすぎるかもしれないが)。このまま何もしないでベネチアが沈むのはあと20年と予測すると単純なベネチアの経済活動価値は1200億円の20倍である。つまり、2兆4000億円のベネチアには資産があると考えられる。
ベネチア観光の年間の経済活動
観光客(1200万)×観光費(約1万円)=1200億円
ベネチアの観光のみの資産価値
観光年間経済活動(1200億)×ベネチアの存在(20年)=2兆4000億円
勿論、お金に計算できない文化遺産もあるが、それを目的にベネチアを訪れる人(つまり、観光して代価を払う行動)で換算した。上の単純な計算式においてベネチアが1年でも長く存在すれば年間に観光だけでも1200億の経済活動が見込まれる。ベネチアが沈んで経済活動が行われなくなった場合の話で、イタリア政府が海底都市の観光名所として再利用しなければではあるが。そのベネチアに住む人であるが高潮による商店被害、移住空間の減少によって住宅費、生活費の高騰が著しく、50年代には20万近かった人口が6万5000人にまで減少している。個人レベルとしてベネチアで生活をするのは厳しい状態といえる。この傾向からグラフにすると右下がりの曲線を描くであろうが、希少価値性を加味すれば経済効果としては平均1200億円の変動はそれ程ないと計算してもよいであろう。
ベネチアの総工費として見積もりは約20億ドル(日本円にして約2000億円)と打ち出されている。可動式水門を建設する対策であるが水質汚染などで生態系に影響を及ぼすとの懸念の中、着工は大幅に遅れ、計画見直しの声もあがっている。例えばこの事業を行ってベネチアが長い間存在するとしても観光価値の低下影響を与えることは予測できる。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の呼びかけで年間130万ドル(日本円で約1億3000万円)が寄付されているが、遺産保存、修復費に当てられるのがやっとである現状である。
日本円にして約2000億円という総工費は、我が国の諫早湾干拓事業とほぼ一致している。ベネチアとこの諫早湾には共通する条件がある。第一に下水道の整備が完全ではないこと、第二に海抜が低く、床上床下浸水の確立が高いこと、最後に防災、もしくは保護のために同額の工事が行われる予定があることなどである。この条件を加味して、ベネチアの工事が行われた場合を諫早湾と照らし合わせて考えたいと思う。
|
ベネチアと諫早湾の共通点 |
|
1.下水道の整備が完全でないこと |
|
2.海抜が低く、床上床下浸水の確立が高い |
|
3.防災、保護のために同額の工事がなされようとしている点 |
諫早湾あたりの民家には下水道が充分に普及していなかった。元々汚水が干潟の調整池に流れ込んでいたが、生息する生物たちが浄化の作用を起こしていた。しかし、公共事業として堤防が閉じられるとそれら生物が死滅して今では海が汚れているという状態である。貝類は激減、有明海の名産である海苔も収穫量が4割減である。生産者の突き上げにより、農水省は干拓工事を中断し、事業そのものの縮小を検討している状態である。問題は防災であるが、毎日新聞に掲載された事業計画書には「工事完成後も洪水時には309戸が床下床上浸水する」と予想されている。
このように考察するとベネチアを救う手としてはベネチア、イタリアを中心として考えた公共事業では実質的な救済は不可能である。もっと根本を突く対策が必要になっていると言える。今、海面上昇の第一の理由は地球温暖化、二酸化炭素である。Aでは概略、D、E章では経済効果も含めてその点について述べていきたいと思う。
A 二酸化炭素と地球温暖化
大気中の二酸化炭素には保温効果があり、地球の温暖化を推し進める原因である。その濃度が上昇すると平均気温が上がるという関係である。
<過去と現在の二酸化炭素濃度の変化―表1>
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過去16万年 |
現在 |
2100年予測 |
|
200ppm(氷河期)〜280ppm(温暖期) |
360ppm |
500ppm以上 |
(環境庁資料)
このように百万分率のパーセンテージに換算すると1.4倍から1.8倍の二酸化炭素濃度の上昇を招いている。
地球温暖化の予測、IPCCの報告によると現在のまま温室効果ガスの排出が続き増加していった場合、地球全体の平均温度は2020年までに現在より約1度、21世紀末までには3度上昇する事があり得るとされ、この影響により海面水位は2020年までに平均20cm、21世紀末までには65cm(最大1m)の上昇があると予想されている。
<余談@〜単純計算でベネチアは何cmの海面上昇で機能しなくなるのだろうか>
この報告から概算すると25年かけて1度の上昇が20cm程の海面上昇を招く。この計算から換算するとベネチアが観光都市として機能しなくなるのは、仮にベネチアの都市が20年の存在として考えると、
ベネチアの存在(20年)=20年で1度上昇=20cmの海面水位上昇
つまり約20cmの海面上昇がベネチアの観光都市としての機能を失わせるのに充分な環境影響であると計算できる。
<余談A〜1mの海面上昇で世界的な被害はどうなるのか>
1.
低地の水没、モルジブなど40カ国は国土の大半が水没
2.
耕地の水没、塩害で食糧危機
3.
異常気象による砂漠化と洪水
4.
マラリア、コレラなどの感染病の増加
(IPCC報告による)
Bイタリア政府観光局のデータ
ベネチアの観光価値を調べるために青山一丁目にあるイタリア政府観光局に質問を行った。しかし、個としてのベネチアの観光資産データを手に入れることは出来なく、イタリア全体としてのデータしか教えて貰えなかったため、全体の数字からベネチアの観光資産価値を推論して行きたいと思う。イタリアの訪問者の数、3480万人。ベネチアの観光客は内1200万人。イタリアを訪れる人の約3分の1が訪れている計算になる。
<イタリア訪問者とベネチア訪問者の関係―表2>
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|
イタリア全体 |
ベネチア |
|
訪問者数 |
3480万人 |
1200万人 |
|
観光客による利益 |
約4兆円 |
? |
観光客による利益はイタリア全体の観光者の利益を日本円に換算すると3兆9千7百2億7千4百万、およそ4兆円になる計算が成り立つ。イタリアを訪れる3分の1がベネチアを訪れるのであれば約3分の1がベネチアの観光客による利益といえる。つまり先程の図は、
|
|
イタリア全体 |
ベネチア |
|
訪問者数 |
3480万人 |
1200万人 |
|
観光客による利益 |
約4兆円 |
約1兆2千億円 |
するとベネチア観光の経済活動は年間約1兆2千万円ということになる。@で換算した数字の約10倍というなんとも言えない結果ではあるがこれで正確な数字が弾き出されたといってもよい。ベネチアの観光存在が20年だとするとベネチアには年間1兆2千万円、20年で24兆円の観光価値があると換算出来る。
ベネチアの観光のみの資産価値=24兆円
観光での収益というのは考え方によれば「ベネチアが存在することによる対価」であると考えても良いだろう。もし誰もベネチアが存在し続けたとしても観光したくないのであれば価値はゼロであり、世界中から1兆2千万円が落ちて行くことはあり得ないからだ。
<余談B〜イタリアに対する対価の比率>
これらの資料を軸にしてイタリアそのものの資産価値を推論する。例えばヨーロッパで観光客が一番多いフランスでは7000万人に対し4兆円である。それに対しイタリアは3500万であるのに対し4兆円である。フランスの倍額を観光客は払っていると言える。このことからイタリアの観光価値が高いことが証明出来る。
話は逸れたが、ベネチアに訪れる観光客による利益を個人換算すると(後のアンケートの際に参照するため)、10万円という数字が弾き出される結果となった。
Cアンケート
環境への意識と、ベネチアの価値についての意識を調べるために渋谷でアンケートを行った。世代は今後の環境に対するものであるため20代前後の人を中心にアンケートに答えて貰った。質問内容は以下の通り。
Q1.ベネチアが海抜上昇で沈みそうなことを知っていますか。
(環境への意識の高さとベネチアの状況について知っているか質問)
知っている場合は○、知らないという人は×で表記した。
Q2.もしベネチアが20年後になくなるとしたらその前に観光してみたいか。
(ベネチアという文化遺産に対して関心があるのか質問)
行きたいという人は○、行きたくないという人は×、沈んだ後に行きたい人は△。
Q3.ベネチアが存在し続けるという価値にあなたはいくらまで対価として払えますか。
(現実として環境危機に対して対価を払えるのか質問)
数字を表記。単位は円。
このアンケートの結果を基にしてベネチア、またはその文化遺産を保護するための費用をどのように捻出すべきか考察する。例えば税金など公的な財を投入するのであれば、環境税としてベネチア等観光に興味のない人からも徴収するのか、それとも高速道路のように恩恵を受けるだろう人から徴収するのかという考察の参考にする。
アンケートの回答は30名、次のページの通りであった。
<アンケート回答>
|
|
Q1の回答 |
Q2の回答 |
Q3の回答 |
|
アンケート者1 |
○ |
○ |
10000 |
|
アンケート者2 |
○ |
○ |
500 |
|
アンケート者3 |
× |
○ |
5000 |
|
アンケート者4 |
× |
× |
100 |
|
アンケート者5 |
× |
○ |
国が出すべき |
|
アンケート者6 |
○ |
× |
10000 |
|
アンケート者7 |
× |
× |
0 |
|
アンケート者8 |
× |
× |
0 |
|
アンケート者9 |
× |
× |
0 |
|
アンケート者10 |
× |
○ |
2000 |
|
アンケート者11 |
× |
○ |
1000 |
|
アンケート者12 |
× |
× |
1000 |
|
アンケート者13 |
○ |
○ |
0 |
|
アンケート者14 |
× |
○ |
1000 |
|
アンケート者15 |
× |
△ |
0 |
|
アンケート者16 |
× |
○ |
3000 |
|
アンケート者17 |
× |
○ |
10000 |
|
アンケート者18 |
× |
○ |
500 |
|
アンケート者19 |
× |
○ |
500 |
|
アンケート者20 |
× |
○ |
0 |
|
アンケート者21 |
× |
× |
0 |
|
アンケート者22 |
○ |
○ |
0 |
|
アンケート者23 |
× |
○ |
30000 |
|
アンケート者24 |
○ |
○ |
10000 |
|
アンケート者25 |
× |
× |
1000 |
|
アンケート者26 |
× |
○ |
10000 |
|
アンケート者27 |
○ |
○ |
未回答 |
|
アンケート者28 |
○ |
○ |
3000 |
|
アンケート者29 |